アプリカルチャー

マッチングAppに託された思いと未来

Pairs、タップル、with3社のCEOに聞く業界での取り組みやこれからについて。

気の合う異性のパートナーや、結婚を前提にした交際相手などを探せるマッチングAppは、 20代から30代を中心にユーザー数を伸ばしています。明治安田生命が2022年の11月におこなった調査によると、2022年の11月までに結婚した人の22.6%が、「マッチングAppを通じて結婚相手と出会った」と答えたそうです。5人に1人の割合です。

今回、マッチングAppの「Pairs」「タップル」「with」(アルファベット順)を運営する3社それぞれのCEOに、各社が考える課題や業界全体での取り組みについてお話を伺いました。

※ 鼎談は2023年1月に行われました。

株式会社エウレカ CEO(現取締役) 石橋準也さん

何よりも力を入れてきた
サービスにおける安心・安全性

人と人との出会いに使うツールだからこそ、安全に安心して使える必要があります。法で義務づけられている年齢確認や本人確認、不審な動きをするユーザーの監視、違反報告機能など、各社ともに安心・安全における機能を整備してきたと言います。

株式会社エウレカ CEO 石橋準也さん(以降、Pairs 石橋):「『Pairs』は2012年にリリースしたサービスです。マッチングAppとしては歴史が長い方で、当時すでに衰退していたいわゆる『出会い系』の新しい形と見られかねませんでした。それらと同一視されないように工夫してきており、その中でも安心・安全という領域は大きなポイントでした。例えば、当時『Facebook』が実名制だったこともありFacebook以外からはログインできないような形をとっていたり、24時間365日対応のカスタマーサポートセンターを立ち上げたり、カジュアルに恋人探しをする、というよりは、結婚相手になるようなお相手を探すサービスである、という“婚活”色を強く出したりしていました」

株式会社タップル CEO 飯塚勇太さん

株式会社タップル CEO 飯塚勇太さん(以降、タップル 飯塚):「私たちは2014年にスタートしたサービスで、開始当初より安心・安全への投資を惜しみなくするというスタンスでやってきました。主に技術と人の両方の側面で投資をしてきました。例えば、空港で導入されているものと同等の、パナソニックの顔認証技術を使った本人確認をおこなっていたり、24時間年中無休のサポートセンターを設置して対応したりしています」

株式会社with CEO 小野澤香澄さん(以降、with 小野澤):「多くの人が集まるところには一定数の“悪い人”(利用規約に反する人)も集まってきます。その対策として、『Pairs』さんや『タップル』さんと一緒に、業界全体での安心・安全面でのスタンダードを上げていくという取り組みをしています。その上で、Appをダウンロードしてからの登録プロセスを短くせず、登録する情報を多くしたり、心理テストを受けてもらったりと、本来の目的外の利用者に面倒に思われるようにしています。さらに、『with』は指針としてテクノロジーと感性のバランスを重視しています。AIによるフィルタリングに加えて、経験値の高いスペシャリストが監視した上で、AIでは見分けられない違和感などをピックアップしています」

株式会社with CEO 小野澤香澄さん

業界全体でのスタンダードの構築

「Pairs」「タップル」「with」それぞれを運営する3社は、業界団体「一般社団法人結婚・婚活応援プロジェクト(以降、MSPJ)」に理事企業として参加しています。各社それぞれの取り組みに加えて、業界共通の安心・安全面における標準づくりのために、業界をさらにいいものにするために、日々ディスカッションを重ねているそうです。

Pairs 石橋:「MSPJという業界団体で、定期的に会合を開催し、安心・安全の領域についてディスカッションしながら、信頼性向上のための取り組みである『7つの約束』という自主規制ガイドラインを定期的にアップデートしています。業界全体の認識としてのスタンダードを上げていく活動です」

MSPJの「7つの約束」には、「より強固な個人確認の徹底」「独身確認」「ルール違反の監視・強制退会ルールの運用」「健全な品質基準(UI/UX)」「利用者への啓蒙・注意喚起」「利用者の個人情報の保護」「継続的なサービス改善」の7項目があり、便利かつ安心・安全な婚活・恋活を応援するためにそれらを遵守していくものとして制定されています。

with 小野澤:「先ほども触れた通り、人が多くいるところには一定数の“悪い人”(利用規約に反する人)も集まってきます。『with』では、『最初のデートで車に乗らないでね』といった、ユーザーへの注意喚起や自衛方法の提示などを告知として発信していますが、そういった危険を察知する力をユーザーに育んでもらうことも業界として取り組んでいくべきだと思っています」

ユーザーのニーズの変化と
マッチングApp疲れ

マッチングAppが登場した当時と今では、ユーザーの出会いにおける優先度も変化してきました。

with 小野澤:「恋愛に対する価値観が変わってきています。特に20代向けにリサーチするとよく出てくるのですが、社会的ステータスにこだわらず、ストレートに内面や価値観でマッチングしたい人が多いので、『with』でも性格分析や心理テストなどのコンテンツなどに力を入れています。さらに、『周りに気を遣ってしまうあまりに、恋愛に発展しづらい』『どのようにデートに誘えばいいかわからない』など、恋愛に奥手な人が増えています。そんな人たちに向けて、返信の話題や文字量などについてアドバイスをくれる『トークアドバイス』機能を実装しています」

幅広い性格分析や心理テストを通じて価値観の合う相手と出会える「with」。

タップル 飯塚:「『タップル』には20代前半のユーザーが多く、その大半が恋人探しのためにサービスを利用しています。気軽にAppを利用されるユーザーが増えたこともあり、簡単に使える楽しいUI(ユーザーインターフェイス)になるように心がけています。趣味などからマッチングする、というのがサービス開始時からのコンセプトなので、共通点から盛り上がれるように工夫しています。また最近、マッチングApp疲れというキーワードを耳にしますが、共通点を通じてユーザーにできるだけ早く卒業してもらうことを大切にサービスを設計しています」

やりたいことや行きたい場所からマッチングできる「デートプラン」が実装された「タップル」。

Pairs 石橋:「恋活、婚活、といったように活動という言葉が、活動=恋人や結婚相手を見つける、のような何かしらのゴールのあるアクションとなり、その目的を達成できないことがマッチングAppに関わらず、恋愛をするにあたっての疲れにつながっているのではと感じています。『Pairs』は、多様な探し方による、膨大なユーザーの中から本命のお相手に出会える機会を提供するとともに、より自然な出会い方を提供することも意識しています。例えば、趣味嗜好ごとにわかれたコミュニティの中にグループチャット機能があるのですが、コミュニティごとの話題でチャットを続けていく中で、この人面白いな、波長が合うかもしれないな、という感覚からアプローチするような出会い方です」

複数名でビデオ通話できる「グループトーク」や、様々なコミュニティの中で会話できる機能「コミュニティチャット」からも気になる相手を探せる「Pairs」。

マッチングAppの
社会的な側面における役割と課題

マッチングAppがより多くの人に使われるようになり、出会いの一つの形として認識されてきた今、それぞれのサービスが始まった当初と比べて、より社会的な面での取り組みも増えてきたようです。例えば、少子化や人口減少が叫ばれる昨今、「タップル」や「Pairs」は、それが顕著な地方自治体と協業することで、その課題の解決を目指しています。「タップル」は佐賀県有田町や嬉野市と若い世代の出会いの機会創出や恋愛・結婚支援、「Pairs」は三重県桑名市と、安心・安全に「Pairs」を使うコツや、詐欺や事件に巻き込まれないための注意点などを発信するイベントや、そこで配布されるギフトコードを通じて、地方でのマッチングAppの普及と出会いの創出を目指しています。

Pairs 石橋:「この50年の間、一組の夫婦が持つ子どもの数は大きくは変わっていませんし、依然として結婚意向は高い傾向にある一方で、未婚化は進行しています。未婚である最大の理由は『適当なお相手に巡り会えない』こととなっています。社会的な課題としての未婚化がある中、マッチングAppがどのように貢献していけるか。出会いのためにマッチングAppを使っていない人に、どのように使ってもらえるか。この辺りが社会的課題への解決に向けた鍵だと思っています」

タップル 飯塚:「私も石橋さんと同じ捉え方です。恋愛のデジタルトランスフォーメーション化(デジタル技術を用いて、サービスやビジネス、さらに私たちの毎日の生活をより豊かなものにする、の意)がマッチングAppだと思っています。世の中の数ある人々の中から、それぞれのユーザーに合う人を見つけられるプラットフォームなので、いろいろな人と出会う機会や、真面目な恋愛ができる環境が整ってきていると思います」

人と出会う、人を好きになることの
素晴らしさ

with 小野澤:「個人的なミッションとして、世の中の価値観の多様性を増やしたいと思っています。様々な価値観を持つ人と出会うことで、相手の価値観を理解できるようになるとすてきですよね。さらに、自分らしくいられる相手がいることが、幸せにつながると思います。そんな人が一人でもいると生活や仕事、人間関係が安定しますよね。この2点のベースが作れるといいなと思っています」

Pairs 石橋:「好きになった人のことを考えながらジムに行って自分磨きを始めたり。人を好きになると毎日が輝くと思うんです。さらに、まったく同じ価値観の人はいない中で、相手のことを思いやり理解することで自分自身が成長していく。それは人の営みとして素晴らしいことですよね」

タップル 飯塚:「人との出会いや恋愛というのは、感情の学び場だと思っています。ドキドキする、イライラする、泣けるほど悲しい。感情を突き動かすものは色々ありますが、恋愛もその一つ。様々な感情が磨かれていくのが恋愛だと感じています」

普段、MSPJでそのような話をする機会はあまりないという3人ですが、人との出会いや恋愛に対するポジティブな思いが、それぞれのサービスの根底部分にあるようです。

途中でも挙がっていた安心・安全なプラットフォームを追求することはもちろん、そのプラットフォームを利用する上での「ユーザーへの啓蒙と認知の徹底」の部分も、改めて業界として広めていきたい、と3社のCEOが同意したところで、今回の鼎談は終了しました。

ユーザーの安心や安全を第一に考えられてきたマッチングAppの「Pairs」「タップル」「with」。各サービスとして、業界として、その点を重視し運営されてきたことで、今では多くの出会いをサポートする大きなプラットフォームに成長しました。その結果、地方自治体とのコラボレーションなどに見られるように、社会問題と向き合う役割も担うようになってきたのです。そして、時代ごとに変わっていく出会いをサポートするツールとして、未来を作っていくのです。